のらりくらり日記

世の中のいろんなことにひっかかりつつ流される備忘録。好きなものを好きといってるだけ。過去の観劇日記もこちらに置いてます。科学系の話も少しだけ。

2016年7月、語るは野暮だと知ってはいるが、辛抱たまらずネタバレ感想(チョコット)「ヒメアノール」

ヒメアノールのネタバレ感想も書きたいのです私は。

 

 というわけで野暮なの承知でちょっとだけ書きたい。
 
 ヒメアノール。

 というわけでネタバレ嫌な人は逃げてください。

 

 

 さて。 

 

 
 私は森田君が「殺人鬼」だという知識を持った状態で、映画館でこの作品を観て、ぞっとしたシーンがある。

 それはカフェでの、最初のおかだくんと森田くんの会話。

おかだくん「久しぶり、何か雰囲気変わったね」
森田くん 「え?」
おかだくん「いや、その髪。・・・金髪っていうの?」

森田くん 「・・・似合わないかな?」
おかだくん「いやそんなことないよ、似合ってるよ」


 細部は異なるがおおむねこのような会話だった。

 ぞっとしたのは、殺人鬼のはずの森田くんの口をついて出たこの「似合わないかな」のピュアさである。
 純粋で素直で、人の目を気にする気弱な人にしか見えないのだ。人を殺す異常さやその犯罪性暴力性が一切見えない。
 ちなみに最後のおかだくんのセリフの後、森田くんはちょっと安堵しているようにみえる。

 この森田くんと殺人鬼を結び付けられなくて、でも殺人犯であることは事実で、それが本当に恐ろしい。

 そしてこの後ものすごい殺人劇が繰り広げられるのだが、ずっと不気味で理解できない犯罪者である。物語の8割くらいまで、善人で主人公はあくまでもおかだくんで、森田くんは悪役の、脇役なのである。
 それが、最後の最後で覆る。えーと、「楽園」の直前のシーンから「楽園」のラストまでで。
 

 そこで気づいた。そうなのだ。
 これはおかだくんの物語ではない。森田くんが主人公の物語だったと。


 あのラストがあるからこそ、「森田くんが絶対的主人公」なのだ。


 そして私はもういい大人なので大分客観的に物語を観たけれどこの映画、
 ただ今絶賛学生中な人たちへ向けて
「おかだくんは間に合わなかったけれど、君たちはまだ間に合うんじゃないの?」

 と言うているような気もする。考えすぎかな。よく考えたらR15だしいやでも。
 うーんうーん。

 

 このラストの後、おかだくんは普通でそしていい人だからこそ、過去に自分が行ったことに対して、ものすごく悔やむだろうと思った。
 そしてきっとそんな岡田君を救ってくれるのは、ユカちゃんじゃなくて安藤さんだと思うんだ。
 安藤さん、ヘンな人だけど、挙動不審だけど、神様みたいに答えを知っている人に見えた。

 安藤さんもきっと森田くんと同じくらいピュアで、きっと過去に森田くんと同じような目に遭った人に見えるんだ。けれど安藤さんはちゃんと、ずっと、自分で一つ一つ正解にたどり着いて今を生きてる。ように見える。

 安藤さんが殺されなかったのも、ただ運が良かったのではなく、気づかぬまに森田くんの核心をついたからではないのかと思った。

安藤さん「おまえ、ホントにヤバいやつだったんだな」
森田くん「そうだよ」

 


 そして、いろんな対比が描かれた作品だったと思う。
 善と悪。陽と陰。正常と異常。幸せと不幸せ。おかだくん(濱田さん)と安藤さん(ムロさん)と森田くん(同)。


 ひきこもった安藤さんを迎えに行くおかだくん。同じことを森田くんにもした。

 これはオレが勝手にやったことだから君たちが気に病む必要はない、と言い切った安藤さん。
 過去自分が森田くんにやったことを気に病むおかだくん。

 恋を成就する岡田くん。恋に破れても立ち直った安藤さん。殺人欲求を抑えない森田くん。

 僕こそ絶交だなんて言ってごめん、僕たち親友だよね?と問いかける安藤さん。岡田くんと森田くんの間にもその問いかけは、きっとある。

 恋人と眠るおかだくん。一人安眠を得られない森田くん。


 その他いろいろいろいろ。残酷なまでの対比。もう一回は多分観ない。それでも。


 観てよかったし、最後の「楽園」は強い印象を残した。
 監督と、救ってあげたかったと思ったひとたちの願いみたいに見えた。